「くろねこのタンゴ〜 タンゴ タンゴ〜♪」
この独特のメロディを聴いた瞬間、記憶の奥底がパッと照らされるような感覚に襲われる人も多いはず。
1969年、テレビに現れた小さな少年が一躍時の人となった。
その少年の名前は皆川おさむ。当時6歳で「黒ネコのタンゴ」を歌い、日本中を虜にした“伝説の童謡歌手”だ。
そして2025年7月23日、その皆川おさむさんが慢性腎不全により、62歳でこの世を去った。
ひとつの時代が、静かに幕を下ろした。
◆ プロフィール：皆川おさむさんとは？
- 本名：皆川 理（みながわ おさむ）
- 芸名：皆川 おさむ
- 生年月日：1963年1月22日
- 出身地：東京都
- 学歴：洗足学園音楽大学・打楽器専攻
- 職歴：童謡歌手／グラフィックデザイナー／ひばり児童合唱団代表
- 代表曲：「黒ネコのタンゴ」（1969年）
- 家族構成：姉・坂井礼子さん（喪主）、伯母・皆川和子さん（児童合唱団創設者）
◆ 6歳にして“記録的ヒット”を叩き出した、あの歌の誕生秘話
皆川おさむさんは、東京都で生まれ育った。
彼が音楽と出会ったのは、極めて自然なことだった。なぜなら、彼の伯母・皆川和子さんが主宰する「ひばり児童合唱団」に幼いころから所属していたからだ。
1969年、「黒ネコのタンゴ」でレコードデビュー。まだ6歳だった。
この曲は、日本語に訳されたイタリアの曲であり、コミカルでキュートな歌詞と、妙に大人びた哀愁漂うメロディが特徴だった。
当時はまだ「子どもがレコードを出す」こと自体が非常に珍しかった時代。
そんな中で皆川さんは、見た目は可愛らしい子どもでありながら、大人顔負けの表現力を発揮し、歌声は全国を席巻。
結果、200万枚以上を売り上げ、オリコン14週連続1位という偉業を成し遂げる。
しかも、その人気は海を越え、世界6か国語でカバーされ、世界累計400万枚超えのセールスを記録した。
まさに、「童謡界のスーパースター」として歴史に名を刻んだ瞬間だった。
◆ 声変わりとともに“別れ”を選んだ少年
しかし、その輝かしいキャリアは長くは続かなかった。
理由はひとつ——声変わりである。
少年時代の高く澄んだ声が失われると、彼はそれを「終わりのサイン」と受け止め、まだ十代のうちに芸能界を静かに去った。
誰もが「第二のスター」を期待する中で、その道を選ぶのは簡単なことではなかったはず。
しかし皆川さんは、自らの意志で“表舞台”を降りた。
これは逃避ではなく、彼なりの覚悟だった。
◆ 音楽は“生き方”だった——洗足学園で打楽器に打ち込む
その後、彼は洗足学園音楽大学に進学。
打楽器を専攻し、舞台裏の音作りやリズムの基礎を一から学び直した。
小さな頃に一世を風靡した少年が、ゼロから真剣に音楽と向き合う——その姿は、静かでありながら、どこまでも情熱にあふれていた。
卒業後はグラフィックデザイナーとしても活動し、アートや映像など、幅広いジャンルでクリエイティブな仕事に関わっていたという。
「音楽」も「表現」も、彼にとっては“人生そのもの”だったのだろう。
◆ 再び子どもたちのそばへ——ひばり児童合唱団の代表に
2004年、伯母の皆川和子さんが亡くなると、彼はその意思を継いで、ひばり児童合唱団の代表に就任した。
そこで彼が向き合ったのは、かつての自分と同じように、音楽を愛する子どもたちだった。
スポットライトの下ではなく、子どもたちの背中を押す役。
怒るのではなく、教える。導くのではなく、寄り添う。
そんな優しい音楽教育の姿勢が、保護者や関係者から高い評価を得ていた。
彼の第二の人生は、まさに「恩返し」そのものだった。
◆ プライベートは、最後まで“沈黙”を守った男
皆川おさむさんについて、私生活に関する情報はほとんど表に出ていない。
SNSもブログも開設しておらず、メディア出演も極めて限定的。
今回の訃報に関して明かされた家族情報も、喪主を務めた姉・坂井礼子さんの名前のみ。
結婚歴や子どもの存在などは明らかになっておらず、おそらく彼は生涯、音楽と子どもたちに人生を捧げた人だったのだろう。
きっと、彼の中ではそれが“最も美しい生き方”だったのだ。
◆ 慢性腎不全との闘い——静かな最期
2025年7月23日、皆川おさむさんは慢性腎不全で亡くなった。
腎不全は、何年にもわたる闘病を要する病気。
透析、食事制限、日々の体調管理……彼は、おそらく静かに、でも粘り強く、その病と向き合っていた。
その最期もまた、騒がしくはなかった。
告別式は7月28日、東京都目黒区の円融寺 示真殿にて。
喪主は姉の坂井礼子さん。かつての“天才子役”を見送るには、あまりに静かで、温かな式になりそうだ。
◆ 最後に——「黒ネコのタンゴ」は、これからも生き続ける
皆川おさむさんは、人生の“最初の6年間”で、もう十分すぎるほどの成功を収めた。
けれど、彼の本当の魅力は、その後の56年にあったのだと思う。
栄光を背負いながらもおごらず、静かに、ひたむきに音楽と向き合い続けた人。
スターでありながら、先生であり、教育者であり、職人だった。
皆川おさむさんが遺したものは、ただの一曲ではない。
「音楽と、どう生きるか」その姿勢そのものだ。
私たちはもう一度、彼の歌を聴こう。
そして、その奥にある彼の人生にも、耳を澄ませてみてほしい。
ありがとう、皆川おさむさん。
あなたの声は、これからも誰かの心をやさしく包み続けるでしょう。
どうか、どうか、安らかに。
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