音楽好きなら一度は耳にしたことがあるであろう、あの美しいデュエット――「点描の唄」。
2018年、Mrs. GREEN APPLEの楽曲として発表され、ボーカルの大森元貴と、シンガーソングライター井上苑子が共に歌い上げたこの一曲は、まるで淡く消えていく青春の1ページを閉じ込めたかのような、“一度きり”の物語でした。
けれど多くの人が疑問に思ったはずです。
「なんでこの2人が突然コラボしたの?」
「あれっきりって、仲が悪いとか?」
「もっと聴きたかったのに!」
そんな声に応えるように、今回は**「点描の唄」が生まれた背景**と、大森元貴と井上苑子という2人の関係性を深掘りしていきます。
■ コラボの始まりは“大森元貴の選択”からだった?
まず最初に明らかにしておきたいのは、このコラボが“どちら発信だったのか”という点。
実際に「点描の唄」はMrs. GREEN APPLEのCDに収録された楽曲であり、制作の主導権はミセス側にあります。つまり、コラボは大森元貴の意向によって始まった可能性が極めて高いということ。
実は大森さん、若い才能にとても敏感な人物で、SNSやYouTubeで注目されたアーティスト(崎山蒼志、有望など)に直接声をかけることも多いんです。
そんな彼が、井上苑子の素朴でリアルな歌声に心を奪われたのも、ある意味では必然だったのかもしれません。
■ 接点ゼロ?なのに生まれた“奇跡の温度差”
実は当時、井上苑子とMrs. GREEN APPLEに明確な共演歴はありませんでした。ライブ共演も少なく、共通のメディア露出もほぼなし。そんな2人がなぜ…?
ヒントは、「点描の唄」の歌詞構造にあります。
この曲は、男女それぞれの視点から構成されており、それぞれが〈私〉〈僕〉として語る、二重の一人称構成。そしてその“心のすれ違い”をあえて交錯させずに進める構成は、まさに2人の「距離」が活きた設計なのです。
井上苑子自身も後のインタビューで、
「<私>と<僕>で主観が違うので、ひとりで歌うのは本当に難しかった。でもその違いが曲の切なさになっている」
と語っています。
つまり、大森さんは「物語のような恋のすれ違い」を描くために、実際に接点が少ないアーティストを起用することで、感情的リアルを引き出したのではないか?とも考えられるのです。
■ なぜ“たった一度”だったのか?
「点描の唄」が公開された後も、2人の共演はほとんどありません。テレビ出演やライブも含めて1回きり。
これについて、SNSでは
「仲違いしたんじゃ…?」
「片方がもう関わりたくなかったのかも?」
という声もありますが、実際はそんなことは全くないと考えてよいでしょう。
まず、「点描の唄」自体が完成度の高い“完結された物語”であり、下手に続きを作ることでその世界観が壊れてしまうリスクすらあります。
また、両者ともに忙しい日々を送り、新曲やアルバム制作が次々と進んでいた時期。予定が合わなかった、それだけの話なのです。
むしろ井上苑子は、その後にリリースしたアルバム『白と色イロ』で「点描の唄」のソロバージョンを収録。ここで彼女は、あの時の気持ちを振り返りながらも、自分ひとりの声で再構築する挑戦をしています。
「本当に緊張した曲だった。でも、音楽ってこれだなって思えた一瞬だった」
と語るその表情から、「点描の唄」が彼女にとってどれほど特別な1曲だったかが伝わってきます。
■ 2人の関係性は“共鳴”という言葉に尽きる
私たちが見落としがちなのは、「仲がいい」や「付き合いが長い」といった関係性ではなく、表現者としての“共鳴”がそこにあったかどうかです。
大森元貴が描く言葉は、どこまでも繊細で文学的。対する井上苑子は、あくまでリアルで感情を丸ごとぶつけるタイプ。
でも、2人には共通して**「不完全な心」を愛し、「未完成な感情」に意味を与える」という音楽性**があります。
井上苑子は、
「大森さんの歌詞は、女性に寄り添える優しさがある。あの<鈍感な僕を叱ってほしい>ってフレーズが特に好きで。男性が自分の弱さをああやって歌えるのってすごいと思った」
と語っており、ただの“コラボ”ではなく、音楽的リスペクトと感性の化学反応があったことは明らかです。
■ あの1曲が“永遠”になった理由
「点描の唄」は、たった一度きりの共演。だけど、だからこそ永遠なのです。
もしこれが、アルバムで何度も同じ組み合わせで歌われていたら…
もし、頻繁にテレビで披露されていたら…
きっと、あの儚さは半減していた。
これは、“手を伸ばしても届かない”距離感が生む芸術。
そして、一瞬だけ交差した2人の感性が描いた、完結済みの物語。
誰かの片想いかもしれない。別れのあとかもしれない。
だけど聴くたびに、「自分のことだ」と思えてしまう。
その奇跡の1曲が、「点描の唄」なのです。
■ 結論:2人の関係に名前はいらない
井上苑子と大森元貴。
共演は一度きり、共作も一度きり、けれどそこには確かな共鳴があった。
そしてこのコラボは、“期間限定”や“業界の仕掛け”なんかじゃない。
「この曲には、この2人でなければいけない」という、誰にも代えがたい音楽の選択だったのです。
今後また2人が交差することがあるかはわからない。
けれど、「点描の唄」が心に残り続ける限り、あの共演は永遠に美しい記憶として語り継がれるでしょう。
心に刺さった、たった一度の“点描”。
その余韻を、これからも私たちは聴き続けていくのです。
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